修行僧ぷってんの雑記

移動メインのトラベラー

リニアがもたらす不幸な未来

リニアによる開通メリットは、以前別の記事で書きました。

 

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その際に、「品川〜名古屋40分、品川〜大阪67分のカタログスペック」でしか話をしない鉄オタを批判しましたが、このカタログスペックによって、ビジネスマンは今より不幸になるのでは?と思ったので、改めて筆を取りました。

 

改めて言いますが、リニア開通時には、品川〜名古屋が40分、品川〜大阪が67分で着く試算です。つまり、名古屋〜大阪は差し引き27分で着く事になりますよね。

 

するとどうなるか。

 

「名古屋と大阪にあった2拠点を拠点統合して、西日本エリアの土地や建物を清算する」

「名古屋〜大阪間は片道30分(往復1時間)しかないんだし、多少残業代を付けても、社員を出張させる方が安上がり」

「片道30分は余裕の日着圏内だから、基本は日帰り出張で。宿泊は禁止」と考える経営者が現れても、何ら不思議じゃないことです。

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当然、ビジネスマンはリニアの駅に住んでいるわけでは無いので、最寄りのリニア駅まで余計な移動が発生します。

 

拠点統合に伴って、元あった客先を全滅させるならともかく、普通なら、客先は(撤退した拠点のエリアに)残したまま、自社の拠点だけ畳む事になるでしょう。

 

 

 

拠点が関西圏か中京圏のどちらかに集約されるか、というのは、企業がカバーしている客先のエリアによって変わると思います。

中四国エリアの客先も関西からカバーするなら大阪に拠点集約、三大都市しか客先がいないなら名古屋、といった具合に。

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そうなると、ビジネスマンにとっては全く良いことがありません。無駄な出張だけが増え、移動距離と時間がかさむ事になります。

 

 

これは何度も何度も言いますが、「移動時間は絶対的に無駄」です。

リニアでどれだけ移動時間が短くなろうが、移動中の車内でWi-Fiを使えようが(※新幹線Wi-Fiはとてもビジネス向けではないです)、「移動した時点で無駄なコストが発生している」のです。

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例えば品川〜名古屋間が、新幹線で90分かかるところ、リニア開通時に40分に短縮されても、リニアで往復80分かかります。

新幹線の往復180分よりマシですが、そもそも移動しなければ0分ですよ。

 

「たまの出張でも所要時間が短い方が良いじゃないか!」という反論も結構ですが、それは有効活用されていない地方の高速道路と同じく、ムダという批判を甘んじて受け入れる必要はあります。

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ましてやリニアは、JR東海が自前で作る「民間事業」なのですから、採算で全てを論じる必要はありますし、たまにしか使われないのは死活問題です。

 

 

とはいえ、拠点を畳み、拠点間はリニア出張、というスタイルが推進されれば、リニアはビジネスユースが残ることになるでしょうが、「リニアのおかげで…」と歓迎されるのは、どちらかと言えばレジャーユースの方では無いでしょうか。

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もっとも、日本の経済や労働市場が、今後さらにシュリンクする事が確実視されている中、リニアが全線開通する予定の2040年に、リニアが気軽に乗れる乗り物であるかどうかは、全くもって分かりませんが。

JH351 名古屋(小牧)→いわて花巻

小牧空港(県営名古屋空港)を拠点空港としている「フジドリームエアライン」。

 

存在は知っていても、乗ったことがないという人が大半だと思います。

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それもそのはず、セントレアがある名古屋エリアにおいて、セントレア発着のANAでもJALでも、ましてやLCCでもなく、あえて小牧発着のFDAをチョイスするからには、FDAしか存在しない行き先に向かう場合がほとんどだからです。

 

今回の行き先は花巻空港。当然ですが、FDAしか飛んでいません。

 

 

小牧空港は、名古屋市中心部から、北におよそ15kmと、意外と至近。

 

名古屋高速や国道41号が空港すぐそばまで通じており、名古屋市内や周辺駅からバスが運行されています。空港直結の鉄道駅はありません。

 

空港への詳細なアクセスの説明は、公式サイトに譲るとして、この空港は愛知県の空港らしく、「マイカーで移動するのが非常に便利」です。

 

↓公式サイトはこちら

nagoya-airport.jp

FDA/JAL便旅客の場合、通常期であれば2日間駐車しても1,500円で泊められます。しかも駐車場は屋根付きで、ターミナルまで濡れずに移動可能です。割引適用方法については後述します。

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さて、飛行機出発40分前に駐車場に到着し、駐車。

ターミナル内部へ向かい、預け入れ手荷物をチェッカーに通します。

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FDAはLCCではないので、国内旅行程度の荷物であれば、無料で荷物を預かってもらえます。

 

そのままの流れでチェックインし、予約番号を提示。相当空いているようで、前方窓側をあてがってもらいました。チケット発券後、カウンターのお姉さんに「出発10分前までに搭乗口にお越しくださ」と言われます。

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小牧空港は、保安検査前にカードラウンジがあるわけでもないので、そのままの流れで保安検査を受けます。

 

かばんの中身に問題がないことの確認や、飲料のチェックがあるのみで、あっさり通過。検査の所要時間は3分もかかりませんでした。おそらく、チケットを発券する時間の方が長いくらいです。

 

この保安検査に対し、異常に時間を多く見積もる属性の方々がいらっしゃいます。その方々は、「1時間前には空港に着くべし」みたいな発言をされるのですが、普段から手荷物にカッターでも携行して、都度保安検査員とトラブルを起こしているから必要以上に時間を要するのでしょうか。

 

 

それはさておき、先述した小牧空港に駐車する時の割引についてですが、割引適用方法はいたって簡単で、この機械に通すだけ。

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これを忘れた場合、飛行機搭乗後にサービスカウンターへ向かい、搭乗券と駐車券を持参し、提示すれば同じく割引が受けられます。

 

 

出発15分前には既に優先搭乗も終了。FDAにはステータス制度がないので、すぐにファイナルコール。

 

小牧にはボーディングブリッジも無いので、飛行機まで数分歩いて、あっさり搭乗。感覚としては飛行機というよりバスに近いかもしれません。

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いざ機内へ。機材はエンブラエル170と小さめのですが、2×2列シートで足元は十分な広さを有しており、2時間以内のフライトなら全然気になりません。

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定刻より早く、7:10にはもうドアクローズして、保安検査の実演がスタート。5分経ったら離陸と、本当にあっという間です。

 

離陸後シートベルトサインが消灯。FDAはLCCでは無いので、ドリンクサービスもきっちりあります。朝早い便は、クロワッサンのおまけ付きなのもありがたいところ。

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FDAは全便Wi-Fiが装備されていないので、なんとなく読書をしていましたが、1時間経たずにシートベルトサインが再点灯。もう着陸態勢です。

 

雪景色が見えてきたところで、定刻より5分ほど早く、いわて花巻空港に着陸。

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国内線程度で、満足度が大きく変わるわけではありませんが、足りないものが多いにせよ、特に不満もないし、何より安いもあって、満足度はそこそこ高めなフライトでした。

静岡に残る不可解なひかりのダイヤ

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またまたリニア関連の話。

 

「リニアが開通すれば、のぞみ利用客がリニアにシフトし、静岡県もひかり・こだまの本数が増えて便利になる」という趣旨のパネルを、JR東海の主要駅に設置しています。

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静岡県各地は、直接リニア開通の恩恵に預かれないため、わざわざあんなパネルを設置しており、JR東海もリニア開通効果のアピールに余念がないです。

 

しかし、その主張には正直懐疑的です。理由は今の「ひかり」のダイヤにあります。

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ひかり号は、停車パターンが大きく2つに分かれていますが、どちらも共通して、東京、品川、新横浜、名古屋、京都、新大阪に停車します。つまり、のぞみの停車駅には、ひかりは全て止まります。

 

 

ひかりの停車駅パターン1つ目は、のぞみの停車駅に、小田原か豊橋を加え(=言い換えれば、静岡県内は全て通過)、さらに岐阜羽島と米原に停車するタイプ。

 

ひかりの停車駅パターン2つ目は、のぞみの停車駅に、静岡と浜松、さらに時間帯によって三島か熱海を加え、岐阜羽島と米原は通過するタイプ。

いずれも基本は1時間に1本運転されます。

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停車駅パターン1つ目は、新大阪を発着駅とするため、いわゆる「新大阪ひかり」。2つ目は岡山を発着駅とするため、いわゆる「岡山ひかり」と呼ばれています。今回取り上げるのは「岡山ひかり」の方。

 

 

「岡山ひかり」は、時間帯によって三島か熱海を停車駅に加えると説明しました。問題は、この停車本数が異様に少ないこと。

 

 

「岡山ひかり」は、三島に1日6往復、熱海に至っては1日3往復しか停まりません。(参考までに、浜松と静岡は3倍近く、およそ1時間に1本停まります)

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では、熱海にも三島にも停まらない「岡山ひかり」は一体どうしているのか?というと、その答えは、「熱海〜三島駅を超低速で通過し、静岡or新横浜到着時点で帳尻を合わせている」のです。

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※静岡到着時間は02分着で全く一緒

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※新横浜到着時間は24分着で全く一緒

 

 

 

時間帯によって駅を通過する事そのものは、別に「岡山ひかり」に限ったものではなく、関東で例を挙げるなら、小田急線経堂駅は、平日のラッシュにあたる時間帯で、急行が通過しますし、もっと大規模なもので言えば、JR中央線の高円寺、阿佐ヶ谷、西荻窪は、土休日に快速列車が1本も止まりません。

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これらは、急行に乗客を集めすぎないようにする混雑緩和(これを「遠近分離」と言います)と、それに伴うダイヤ乱れの防止、また駅を通過して速達性を向上させる事を目的としています。

 

一方「岡山ひかり」はというと、三島に停車する列車は、東京•岡山方面共に6本ずつで合計12本。(9時台から19時台の間で2時間に1本停車)。熱海に停車する列車は、岡山方面が10時、16時、18時、東京方面が11時、13時、19時の3本ずつで合計6本です。どうも歪なダイヤですよね。

 

 

さて、現状を述べたところで、以下、想定される反論とそれに対する意見を述べていきます。

 

 

 

•速達性の向上に役立っている

→先述したように、停車しようが通過しようが、運転時刻は1分も変わらないため、今のダイヤでは、速達性の向上には何ら寄与していません。

 

•ダイヤ乱れの防止に役立っている

→朝は9時台まで通過するため、一見正しいようにも思えますが、夕方のラッシュ時にも関わらず、熱海か三島に止めているので、ダイヤ乱れの防止にも当てはまりません。

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•三島or熱海にひかりが停まると、後ろのこだまが遅れるので、今のダイヤになっている

→確かに「岡山ひかり」は、岡山方面の全列車が、小田原でこだまを追い抜き、抜かれたこだまは、三島までひかりの3分後ろを追いかけますが、本当にそれが問題であれば、夕方はひかりを全便通過にすべきですが、今はそうなっていません。

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夕方以降は、通勤用に三島までのこだまが増便されますので、「熱海か三島へは、夕方に三島行きのこだまを増便しているからそっちを使え」というスタンスの方がまだ分かります(小田急線経堂駅の例と一緒)。

 

しかし現在は、昼間に通過し夕方は停車するという、歪なダイヤとなっており、指摘の内容は正しくありません。

 

 

•並行するJR東日本に対して忖度している

→熱海の停車列車を見れば分かる通り、10時台に岡山方面行き、11時と13時には東京方面行きのひかりが止まります。

 

 

この時間は、並走するJR東日本の在来線特急「踊り子」が運行されています。JR東海が本気で忖度するなら、少なくとも熱海には停車しないでしょう。というか、民間企業同士が競争せずに忖度するのはおかしな話ですけどね。

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以上の事を踏まえて考えると、「三島or熱海に停まるひかりは、今ぐらいの停車本数で問題ない」という思想のもと、ダイヤが設定されているといって差し支えないと思います。

 

というのも、鉄道は停車駅が増えるたびにお金がかかります。1度スピードを0km/hに落とした後、再び発車する時に余計な電力を消費するからです。

 

リニアが開通した事で、三島と熱海の利用客が劇的に増えるかと言えば、到底そうは思えないですし、「1本も列車を増やさなくていいのに停めていない」ダイヤをそのままにしている時点で、リニア開業効果も何もないのですが……

 

 

JR西日本の普通回数券廃止を受けて

先日、JR東海の新幹線回数券廃止と、JR西日本の回数券廃止のニュースが飛び込んできました。


前者は割引としては渋かったのもあり、個人で購入して複数回使うというよりは、どちらかと言えば企業向けや、金券ショップでの飛び乗り需要としての性格が強く、そこまでの反発は出ていません。
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一方で後者。これは相当影響がありますし、反発も多く見られます。なぜなら、単なる値上げでしかないからです。


後者が値上げとなるのは、「私鉄対策の運賃」、いわゆる「特定区間運賃」と呼ばれるものが主に関わってきます。


JRの運賃は、距離が伸びる事に一定率で運賃が加算されていきます。しかし、この料率をそのまま当てはめると、競合する私鉄に対して、著しく不利になる区間が存在します。


関東圏で言えば、新宿〜高尾(京王と競合)、関西圏で言えば、大阪〜京都(阪急と京阪が競合)、大阪〜三ノ宮(阪急と阪神が競合)などがそうです。
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そのため、JRが私鉄に対抗出来るように、私鉄と並行する区間は、「距離に関係なく」運賃を設定する事としました。


しかし、「競合するのは私鉄と競合する区間だけ。そこから外れた区間は競合もなく、JRを使わざるを得ないのだから、安くする必要はない」ため、特定区間運賃が適用される区間を1駅でも外れると、通常の料率が適用されます。
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(例)池袋駅にて撮影。高尾までは820円、相模湖までは990円ですが…

するとどうなるか。下の画像のように途端に値上がりするように見えるのです。
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(例)新宿駅にて撮影。相模湖までは990円なのに、高尾駅までは570円と数段安い水準です。ちなみに、新宿〜高尾は本来730円かかります。



乗車券は、乗る駅から降りる駅まで買うのが普通ですが、先ほどの制度を活かして、乗車券をいくつかに分割する(以下分割芸と言います)と、普通に買うのが途端にバカバカしくなります。

具体例を挙げましょう。彦根から三ノ宮まで移動するとします。
距離が135.1kmなので、通常購入で2310円かかります。
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しかし、ここで先ほどの分割芸を使うと、以下のようになります。
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片道だけで、これだけの差がつくのです。割引率にして12%です。


そのためか、関西圏では「回数券のバラ売りをしている金券自販機」が当たり前のように設置されています。
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利用客にとっても、普通に購入するより安く抑えられるために人気を博しているのですが、今回の回数券廃止は、この分割芸を封じるとともに、金券ショップ潰しの策と言われています。

※もちろん、三ノ宮や、大阪、京都などで一旦改札を出て、切符を買い直せば(あるいはICカードで乗車すれば)、今後も分割芸をする事は可能ですが、これまでは1本で行けていたのに、わざわざ途中下車する手間は無視出来ません。


そして、反発が大きかったもう1つの理由が、「ICOCAのポイントサービスが相当見劣りして、大半の人には値上げでしかない」事です。


回数券は「購入日から3ヶ月有効」なのですが、ICOCAのポイントサービスに関しては「暦月の1日〜末日までの積算で、かつ同一運賃区間を11回乗車した時、11回目以降から15%還元」という、普段使いでない人にとっては、とんでもなく厳しい条件となっています。

https://www.westjr.co.jp/press/article/items/210331_02_icoca.pdf

これほどまでに関西で回数券が指向されるかと言えば、関西エリアの流動と新快速の影響が大きいでしょう。


東京の場合でも、分割芸を行えば確かに安いのですが、先述した通り「1駅でも区間を外すと割引が適用されない」ため、都心に到着しても路線が大量にあり、目的地が分散しやすい東京では、駅前に金券自販機が設置されるような状況にはならなかったと考えます。
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一方で関西は、東京ほど路線網が発達していない事から、「とりあえず三ノ宮、大阪、京都駅が目的地」か、「それらの駅から乗り換えて移動する」事になり、分割芸の恩恵を受けやすいからこそ、駅前に金券自販機が設置されるようになったのではないでしょうか。
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もう1つは新快速です。



新快速のスピードに関しては、今更言うまでもありませんが、姫路や野洲といった「関東だとお出かけには少々ためらう距離(約90km、関東だと1時間半近くかかります)でも、大阪から1時間程度で着いてしまうため、十分移動出来てしまいます。
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そんな新快速の功罪とも言うべきか、播磨地区や滋賀県から京阪神エリアに向かう時は、「分割芸を利用した方が安くなる」パターンがほとんどであり、しかもICOCAポイントサービスの割引率は、先ほどの例で出した、分割芸での12%と比較しても、割引が渋いというか、ほぼ正規運賃で乗れと言われているようなものです。



これらの話をすると、「滋賀県や播磨地区からの分割芸は、本来の使用用途と違うのだから禁止されて当然」という意見がありますが、この歪んだ運賃制度をそのまんまにしているどころか、さらに格差を助長している方が、よほど問題なのではないでしょうか。



というのも、京都〜大阪などは、2018年に廃止された「昼特回数券」の割引をICOCAポイントサービスに残しており、区間によっては「土日に乗るだけで50%還元」という有様です。このように、京阪神とそれ以外の地域で、割引を受ける金額が全く違います。

https://www.jr-odekake.net/icoca/guide/point/pdf/point_timezone.pdf

そして皆さんがことごとく無視していたのが、「振替輸送」。


先ほどの分割芸は、区間が分割されているのがネックではありますが、例えば大阪〜京都や、大阪〜三ノ宮などの私鉄競合区間などは、振替輸送の恩恵を受けやすくなっています。というか、京阪神以外の播磨地区や滋賀県は、そもそも振替輸送がない場合も多いですし。


ところが、ICOCAで乗車すると、「行き先が決まっていないから」という理屈で、振替輸送の恩恵を受けられません。
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以前までは、ICOCAでも振替輸送の恩恵を受けられたのですが、2019年に突然改悪され、ICOCAで移動するインセンティブがさらに下がりました。

https://www.westjr.co.jp/press/article/2019/01/page_13653.html

新快速は確かに速いのですが、走行距離が長い分トラブルも引き起こしやすく、いざという時の保険は、ICOCAよりも切符の方が有利という本末転倒な状況に加え、JR東日本と違って運賃も同額とくれば、わざわざICOCAを使用するメリットがありません。




こういう改悪をするぐらいなら、「切符を買う旅客は割引を受けられなくし、1回乗車からでもICOCAの割引を強化する事で、ICOCAを使用するインセンティブを高めるべき」でしょう。

この発想はETCの土日割引と同じです。


あるいは、京都〜大阪や三ノ宮〜大阪といった私鉄競合区間を「通過しただけ」の場合でも、時間帯指定ポイントを受けられるようにする、という方法も考えられます。



しかし、JR西日本はそうしませんでした。
結局、本来の仕組みに是正する事が、いくら「正しい」としても、今あるサービスに対してのフォローが不十分だと、値上げとしか映らず、反感を買うだけでしかありません。

「関西圏のきっぷ離れ」は、当分遠いなと思った出来事でした。

日本の鉄道は高いというおはなし

「日本の鉄道って高くないですか?」

 

 

これ、定期的に論争になるテーマで、そのたびに解決しないループに至ってる気がします。

 

今回はこのテーマについて、ちょっと考えてみたいと思います。

 

 

 

前提

「鉄道が高い」とは具体的に何を指すのか

前提として、「鉄道が高い」というのは、乗車距離に応じて逓増する料金システムそのものを指しているわけではありません。ここを履き違えている人がちらほらいる印象です。

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例えば、東京〜大阪(約550km)の乗車券は8,910円ですが、大抵の人はその金額を気にしたことはないでしょう。

 

というのも、大多数は東京〜大阪間は新幹線を利用するため、新幹線の特急券5,810円(のぞみ指定席の場合)を合わせた、14,720円の方、つまり「総額」に着目するからです。

 

この「総額」が高いという指摘を受けているのです。

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交通機関の選び方にギャップ?

「鉄道が高い」という主張に対して反論する人は、「鉄道にもこんな切符がある」という言い方をします。

 

交通手段を決める時は、乗り物好きでもない限り、「どの交通手段で行くか」を前提に組み立てるのではなく、価格、所要時間、出発時間、設備、あるいはアクセス等を総合的に判断し、「どの交通手段で移動するのがベターか」、あるいは「この予算でどこまでいけるのか」を決めます。

 

その判断の中で、鉄道が「価格」のフィルターを通過出来なかっただけの話なので、それに対して格安切符の存在を説いても無駄です。

 

 

 

さて、結論から言うと、「鉄道でも安く移動する方法が無いわけではないが、競合交通機関で比較した場合、多くの点で相当見劣りするので高いと感じる」が正確なところかなと思います。以下各項ごとに持論をを述べます。

 

 

 

 

①割引運賃の考え方

突然ですが、「東京〜大阪の夜行バスの運賃はいくらだと思いますか?」という質問をされた時、一言で答えるのは難しいと思います。

 

というのも、曜日によって違いますし、3列シートか4列シートか、はたまた車内設備や運行会社によっても違うためです。

 

ただ、共通して言えるのが「バス会社ごとのベース運賃という考え方こそあれど、東京〜大阪の距離に対する運賃、という考え方は存在しない」という事です。

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しかし、鉄道はまるっきり逆で、言ってしまえば「考え方が正規運賃ありき」。その正規運賃に対して、○%割引、○円割引という表現をよくします。鉄道会社自らこの宣伝方法を行なっているあたり、利用客も鉄道会社も、いかに正規運賃で料金を見ているかがよく分かりますよね。

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ちなみに、飛行機には空港間ごとに正規運賃がありますが、形骸化している事もあり、チケット購入画面で目にする事はあっても、ほとんど意識した事がないでしょう。(参考までに、東京〜大阪のJALとANAの普通運賃は、約25,000円だそうです。私は知りませんでした。)

 

 

 

②割引を受けるまでのハードル

鉄道をメインに移動する人からすれば、「え?」って思う人もいるかもしれません。しかし、鉄道で割引を受けるまでのハードルが、競合交通機関に比べて高すぎるのです。

 

具体例としてはオンライン予約。

 

飛行機やバスはそうですが、オンラインで割引運賃を購入する時、会員登録をする必要はありません。

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※JALの例。会員登録せずともこの画面に来れます。

 

 

ヘビーユーザーになるのであれば、ポイントやマイルの観点から、会員登録をした方がお得になるのですが、「試しに使ってみよう」程度であれば、申込段階では個人情報だけを入力するだけで、割引運賃で購入出来ます。もちろん、購入後に会員登録する事も可能です。

 

 

一方で鉄道は、会員登録をしないと、どうあがいてもオンライン商品を購入出来ません。もっと言うなら、「会員登録をしなければ、割引運賃が現時点で買えるのか買えないのかすら分からない」ケースもあります。

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※JR九州の例。購入には会員登録が必要ですが、空席か満席かは会員登録せずともわかります。

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※JR西日本の例。予約以前に空席かどうかすら分かりません。

 

 

はっきり言って、割引運賃で買わせる気がないですよね。バスや飛行機を予約する時、そこまでの嫌がらせを受ける事は絶対にありえません。利用者にとって相当不親切な設計です。

 

 

③旅行先によって鉄道会社が違う可能性

これは②にも付随しますが、例えば東京在住の人が、函館と広島の旅行を検討していて、それぞれ割引運賃で購入したいとしましょう。この場合、同じサイトから買えません。なぜなら鉄道会社が違うから。

 

東京〜函館はJR東日本の「えきねっと」、東京〜広島はJR東海「エクスプレス予約」をそれぞれ会員登録する必要があります。

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会員登録の手間もそうですが、鉄道会社が違うと料金も思ったほど安くなりません。

 

例えば、仙台〜名古屋なんかは酷く、割引を受けようと思ったら、1回の旅行で仙台〜東京、東京〜名古屋の2枚、切符を買う手間がかかり、料金は最安でも片道14,000円程度です。手間を惜しんで定価で移動すると、片道20,000円の切符を買うハメになります。

 

 

④早期割引ではどうか

JRの場合、現在のシステムでは、どれだけ早く予約したくても、1ヶ月前でしか予約出来ません。

 

「飛行機は2ヶ月前の割引運賃を持ち出すのに、JRは正規運賃を持ち出すのはズルい」というのは界隈の常套句ですが、「1ヶ月前」というタイミングを飛行機に当てはめると、特便28やANAスーパーバリュー28と同じぐらいです。これ、安い運賃を狙うなら、「相当出遅れている」と言っても過言ではないレベルです。

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※予約タイミングによってここまでの差が出る

 

つまり、鉄道の割引は、必然的に「緩い条件にしては安い」という評価にならざるを得ないのです。

 

 

 

⑤直前で予約するとどうか

鉄道の有利な部分としてよく上がる、直前の予約ですが、この記事で以前簡単に触れたことがあります。

 

飛行機には、ビジネスきっぷ(有効期限内なら何度でも変更自由)があったり、前日でも特便運賃があったりと、まるっきり勝負にならない価格、というわけではないです。

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※2021年3月8日における東京〜広島の価格差の例。前日でも価格差は3,000円です。便によっては価格差が1,000円近くに縮まるケースもあります。

 

 

ただ、彼らがこの話を持ち出すたびに「分かってないな」と思うのですが、直前の切符を買う人達って、ビジネス目的や緊急性の高い移動がメインですよね?そんな人達が「鉄道は高い」と言う場面ってあるのでしょうか?

 

 

鉄道が高いと言われるのは、「どれだけ早期予約出来る環境にあっても、どれだけ条件が厳しくても構わないのに、最安料金そのものが高い基準にあるから高く感じる」からであって、直前の正規運賃を持ち出す時点で、「鉄道で価格訴求なんて到底出来っこないです」と、白旗を上げているようなものです。

 

 

 

例えば、80日前に旅行を決定した時、どの交通手段がどのぐらいの価格で移動出来るか?

これが60日前になるとどうか?

45日前は?21日前は?7日前は?

と、予約タイミングによって交通手段のベターな選択肢は変わりますが、予約タイミングが前になればなるほど、鉄道では価格のニーズを満たせないので、鉄道は高いと言われるのです。

 

 

⑥予算先行の旅行

前提2で話した、予算先行の旅行についてですが、これはもうはっきり言って鉄道と飛行機、バスとでは埋まりようのない差が出ています。

 

例えば、「東京から片道1万円でどこまで行けるのか?」という視点に立ったとしましょう。

 

まずは鉄道。

西へ視点を向けると、せいぜい名古屋が良いところ。京都・大阪へは足が出ますね。

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北は青森までがボーダーラインと言ったところ。北海道へはあと1歩及ばず。どれだけ早期に予約してもここが限界です。

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続いてバス。

 

やはり圧倒的に安く、名古屋・大阪あたりなら往復してホテル代を含めても1万円で収まりますし、西は広島や四国、出雲あたりまで、北は青森までの全域がカバー出来る計算です。

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最後に飛行機。

 

早期に予約すれば、大抵の目的地へ到達出来ます。もちろんLCCが主ですが、JALやANAで全く出ないわけではないです。

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※コロナの影響もありますが、今は2週間前の予約でもこの金額です。

 

 

「予算先行の旅行というニーズは存在するのか?」という疑問に関しては、スカイスキャナーというサイトを見ていただければわかります。

 

このサイトで、出発空港を入力すると、「目的地が決まっていない場合」というサジェストが出てきます。

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これは、「出発空港は決まっているけど、行きたいところがまだ決まっていない」という人向けに、全国…いや、全世界の航空券を検索し、金額順に列挙してもらえるという機能です。

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こういう機能がある(しかも金額順に列挙している)時点で、予算先行のニーズがあるという証左になりますよね。

 

 

⑦結局のところ

ここまで色々主張しましたが、使われている切符、使い勝手の良い切符は、ちゃんと使われています。

 

繰り返しになりますが、鉄道が高いと言われるのは、「価格訴求が出来ていない」事が全てであり、鉄道運賃を自由に設定出来ない事が原因ではないのがわかります。

 

というか、鉄道運賃も形骸化させる事は簡単です。企画乗車券扱いにすれば、どうとでも出来てしまうわけです。

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※これなんかは良い例。大阪市内〜出雲市の乗車券6,600円より、乗車券+特急券の方が安いという逆転現象が起きています。

 

基本的な鉄道運賃はそのまま残し、席数や日程、区間限定で、距離に関係なく価格を設定してしまえば良いんです。もちろん、「乗り捨て」は出来ない仕組みにした上で。

 

 

「時間はあるけどお金が…」というのは大学生のあるあるですが、そうでなくても、予算先行のニーズは確実に存在しています。そこを鉄道がどう満たせるのか。

 

そのニーズを無視し、「鉄道の割引と比較しろ」などと傲慢な主張をしながら、クローズドな世界を生きている人には、一生かかっても気づかない現実が広がっているのです。

 

リニアは東海道新幹線のバイパス?

JR東海の赤字決算を見て、「リニア不要論」を口述する方に対し、鉄道オタクが反論するという光景がよく見られます。

 

また、2021年2月に発生した福島沖の地震で、在来線の常磐線が東北新幹線の代替を担っている事から、「東海道方面は、東海道新幹線のバイパスが無く脆弱なため、リニアが必要論」が盛んに出されています。

 

その主な主張としては、

①リニアは東海道新幹線のバイパス

(※その中でも、以下3つの主張に分岐します)

 

1.現行ルートとは別のルートを構成出来る。

2.東海地震が発生しても円滑な輸送が可能となる。

3.東海道新幹線の改修が出来る。

 

②所要時間の短縮

=東京〜大阪間における航空機からの転換

③滞在時間の増大

④需要創出

 

等があります。

 

そんな中、よく見るのが「リニアを不要だと論ずる事は革新を拒絶し、文明社会を否定する事」「1960年代に存在した新幹線反対派は、こんな感じだったんだろう」のような発言です。

 

 

さて、私の主張に移る前に、リニア推進派がおそらく意図的に無視している前提を3つ触れましょう。

 

 

前提1「リニアが大阪まで開業するタイミングは、名古屋までの開業から、最短でも10年間の開きがある」

 

こう言うと、「リニアは全線開業して真価を発揮する!区間開業で真価がわかるわけない!グダグダ言うな!」と顔を真っ赤にして反論してくるでしょう。

 

もちろんそれはその通りです。全線開業して真価を発揮する。そこは同感です。

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が、名古屋まで開業後、どうあがいても最低10年は名古屋止まりのまま、という事実は揺るぎません。

 

前提2「リニアも保安検査が存在する可能性が高い」

 

要は、「(保安検査のない)新幹線なら○分乗り継ぎでも間に合う」という概念を捨て去らなくてはいけません。

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※流石にこうはいかないはず

 

前提3.座席定員が新幹線未満

 

今のところ、リニアを何両編成にするかハッキリしていませんが、12両編成で定員728人、16両で定員1,000人です(JR東海のサイトには16両編成で記載されています)。

 

 

これらの前提を踏まえて。

 

 

私の主張としては、「JR東海が赤字決算を出した程度で不要論を掲げるつもりはないし、バイパスは必要だと考えるが、リニアがその役目を果たせるかは当面疑問が残る」です。

 

 

 

④の需要創出は、触れるまでもないので割愛。ただし、東名阪間で利用客が劇的に増えるかと言われると、値段次第な所もあり、微妙と言わざるを得ませんが。

 

 

 

①リニアは東海道新幹線のバイパス

という主張は、主に東海道新幹線の改修や、東海地震の備えとして論じられることが多いですね。

 

ただこれ、前提1でも述べた、「リニアの名古屋開業後から大阪開業前」の期間だと、バイパス効果が十分に果たせない可能性があります。

 

というのも、リニア名古屋開業時点では、東海道新幹線「のぞみ」の本数が減らないという事は、ほぼ確定しています。

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理由は下の記事でも述べていますが、リニアが名古屋止まりの時点では、関東〜関西の直通需要が減らないためです。

 

 

www.travelpudding.com

 

つまり、リニアが全線開通するまでは、いくらリニアが東海地震の危険エリアをバイパスしようとも、現行ルートの東海道新幹線が被災し、何かしらの影響を受けてしまった時点で、名古屋より西側を走行する新幹線の本数が、大幅に減少する事を意味します。

 

そもそも、バイパスというからには、リニアが品川〜名古屋間が開通、名古屋〜新大阪間が未開通の時点では、名古屋の折り返し設備をめちゃくちゃ強化して、名古屋より東で何かあったとしても、中京圏以西に影響が及ばないようにするのが「当たり前」です。

 

しかし、実際はそんな話は全く聞こえてきません。名古屋駅周辺に土地が無くて設置するのが無理とか、理屈をこねればいくらでも言い訳出来ますが、「そもそもバイパスとは何?」って話ですよね。

 

 

そのため、中京〜関西圏は、東海地震の危険エリアから離れているにも関わらず、東海地震の影響を受ける可能性を大きく秘めています。

 

 

そこまでの大規模災害でなくとも、静岡県内の大雨や人身事故等で東海道新幹線が不通になった場合でも、十分影響を被る事になりそうです。

 

※そもそも、東海道新幹線から直線距離で100kmも離れていない路線を、地震発生時のバイパスと呼べるかは甚だ疑問でしかないですが…

 

 

さらに言えば、乗車人員も問題です。

 

前提3で説明した通り、16両が全車普通車でもMax1000人しか輸送出来ません。

 

よく「東海道新幹線の代替輸送手段はあると言えようか?いやない。」と主張する人もいますが、リニアでも代替手段としては力不足なんです。

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東海地震などで長期不通になる事態は、リニア全然開業後にしか絶対発生しない」と想定しているのかはわかりませんが、リニアは東海道新幹線のバイパス、というのも、当面はギャグでしかないわけです。

 

しかし、「JR東海は悪くない。10年後になれば劇的に変わる。大阪まで一括開業出来ないリニアの実力に対する認知の低さと、十分な支援と、何より静岡県が悪い」などと、鉄オタが真顔で言い出しそう(というかもう言っている)なのが怖いです。

 

 

 

②所要時間の短縮(=東京〜大阪間における航空機からの転換)

これについては、前提2で述べた、「リニアにも保安検査がある可能性が高い」という前提を意図的に無視しています。

 

 

保安検査を必要とする場合、実際に保安検査に要する時間「以上」のバッファを持たせて行動するのが普通です。

 

例えば、リニア品川駅は、今の東海道新幹線のほぼ真下に作る事になっています。

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そもそも、品川駅で在来線から新幹線に単純に乗り継ぐ事だけ考えても、10分は見ておきますよね。

 

そこからさらに地下へ降り、保安検査を通過するとなると、在来線を降りてからリニア乗車まで、トータル30分は見ておきたい所です。

 

※30分の内訳としては、

在来線→新幹線改札 10分

新幹線改札→リニアホーム階 5分

保安検査+バッファ 15分です。

 

 

これらを踏まえ、例えば品川駅高輪口を起点に考えると、リニアの実勢時間は、品川→名古屋駅で約70分(新幹線:約110分)、品川→新大阪駅で約100分(新幹線:約160分)となります。

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しかし鉄オタは、品川〜名古屋約40分、品川〜大阪約67分の「カタログスペック」を全面的に押し出したいからか(※酷い場合だと、東京〜大阪を1時間で結ぶ、などと主張する始末)、リニアへの乗り換えはおろか、保安検査の存在すら無視する有様です。

 

 

言うなれば、飛行機で東京〜大阪便に乗って移動する時、「東京(羽田空港)を出発してから大阪(伊丹空港)に到着するまで、所要時間は65分だ」と主張するようなものです。

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ちょっと頭の回る人間なら、この主張がいかにバカげているかが分かるようなものです。駅の中に自宅やオフィスがあるのでしょうか。

 

 

あと、飛行機の転移については、ほぼ無いです。東京〜大阪間はJAL•ANAが、それぞれ1時間に1本という分かりやすい時刻設定、いわゆるパターンダイヤ化していますし、所要時間が問題なら、2021年現在ですら、飛行機は新幹線に勝ててませんよね。

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③滞在時間の増大

これについても同様に、実情よりも誇大して触れ回っているのが見受けられますが、リニアの全線開通時に、大阪往復で2時間増大するのが現実的な線でしょう。

 

 

それでも、リニアの開通効果としては謳えます(※数少ない開通効果の中で、ほぼ唯一の拠り所でしか無いのも事実です)が、最も効果が高そうなのは、「最終」が繰り下がる事ではないでしょうか。

 

 

新幹線と同じく、0〜6時を運転しない時間帯と想定すると、品川から大阪行きで22時30分発、名古屋行きで23時頃まで設定出来ます。品川行きも同様に、大阪22時30分発、名古屋23時発の列車が設定可能です。

 

 

 

2021年2月時点で、東京発の最終は、

新大阪行きが「のぞみ265号」で21時24分発、名古屋行きが「ひかり669号」で22時3分発。

 

逆に東京行きの最終は、

新大阪発が21時24分発「のぞみ64号」です。

名古屋発も、同じ「のぞみ64号」となり、22時12分に発車します。

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これらを踏まえると、最終列車の出発時間は、1時間ぐらい繰り下がるイメージでしょうか。

 

 

ちなみに、「始発」に関しては、今と比べて繰り上がる事はないでしょうし、保安検査云々を含めて考えると、品川・新大阪からは、6時発ではなく6時20分発を設定するのではないでしょうか。

 

とはいえ、品川・新大阪からのリニアの始発が6時20分でも、7時台に品川・新大阪駅に到着出来るのはすごいですね。

 

 

ついでに言えば、山梨県における東京方面の輸送改善には、大きく進歩するかもしれません。絶対数は知れてますが、こだまの三島始発東京行きみたいな設定はあり得るかもしれませんね。

 

 

④最後に

 

「リニアを不要だと論ずる事は、革新を拒絶し文明社会を否定する事」「1960年代に存在した新幹線反対派は、こんな感じだったんだろう」という発言についてですが、「たかだか」所要時間が片道1時間程度短くなる程度の功利(しかも、それが達成されるのは最短でも17年後)を否定するだけで、原始人扱いする方がよほどおかしいと思いませんか。

 

以前、「移動する価値の高いVIPは、リニアを使う!」というネット記事を見かけましたが、そんなVIPとやらは「普通席」のリニアを使うでしょうか?そもそも、年に何回そんな機会があるでしょうか?

 

 

それこそ観光需要みたいなもので、当てにするにはあまりにも弱いですし、VIPとやらのためにアッパークラスを増やせば、自ずと座席定員が減り、東海道新幹線のバイパスもクソもない状況になります。

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というか、なんだかんだ言って、リニア事業は、「自社事業をサスティナブルなものにしたい、というJR東海の目的が第一義としてあり、公共事業的性質は、はっきり言ってついででしかない」わけです。

 

 

だから、リニアの建設が各地で遅れていることや、静岡県での工事が進まない事に対して、「日本の国土強靭化ガー」「経済損失ガー」「バイパスガー」と発言するのはズレていて、「JR東海様の事業維持のために、便益を受けられない地域だろうと何だろうと、JR東海様の方針を甘んじて受け入れろ」と主張するのが正しいのですが、認めたくないのでしょうか。

 

ムーンライトながら廃止で消える格安移動の選択肢

ムーンライトながら、廃止決定。

 

 

運行車両の185系が廃車となるにあたって、その去就が注目されていましたが、結局は廃止になりました。最終運行は2020年の3月で、さよなら乗車も叶わなかった人は多いでしょう。

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そんなニュースを発表したJR東日本のプレスリリースには、廃止理由として「列車の使命が薄れてきた」とあります。

 

これについては、今まで消えていった夜行列車の廃止理由によくあった、「車両の老朽化」と「利用客が減った」だけしか書かれないパターンとは、少し性質が違うような気がします。

 

以下、いくつか考察してみます。

 

 

元々、ムーンライトながらは、毎夜走る定期列車で、さらに自由席も存在しました。

 

しかし、2007年に指定席化、2009年に臨時列車化されてからは、新幹線の最終を逃した人向けという役割も失って、18キッパー(青春18きっぷ利用者を指す)専用列車状態となっていました。

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「2009年の臨時列車化でムーンライトながらは役割を終えた」という声も聞きますが、それは誤りです。

 

確かに2009年には、既にツアーバスが存在しましたが、まだ危険な乗り物という認識は根強かったですし(2012年の関越道ツアーバス事故で顕在化したとも言えるが)、「正真正銘のLCC (ジェットスターやpeachを指す)」も「ツアーバス上がりの高速乗合バス」のいずれも存在していません。

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つまり、ムーンライトながらは臨時列車化後しばらくは、東京〜関西間の主たる格安移動手段として君臨していたのです。

 

 

 

しかし、それも近年では、乗車日1ヶ月前に窓口に行って狙って抑えなくても、最混雑期をずらせば、直前でもなんとなく空いている事が常態化していました。

 

 

ムーンライトながらは、えきねっとでネット予約も出来るとはいえ、人気の日取りを予約するには、やはり乗車日1ヶ月前に窓口へ行き、予約する必要があります。

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この「1ヶ月後の指定席を抑えに窓口に行く」という行為そのものが前時代的な事や、主要駅でしか1ヶ月前予約を受け付けなくなったなどの理由からか、ネットオークションでチケットが出回っていたのが問題になりました。

 

 

また、ムーンライトながら自体が、ネットでわ「走るスラム(※)」などと呼ばれたりして、どことなく、気軽に乗りやすい乗り物では無かったように思えます。

 

※このワードも、自由席が存在した時代には当てはまっていたかもしれませんが、今はスラムと呼ぶには大人しすぎます。しかし、未乗車の人だと信じ込んでしまうかもしれません。

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前提として、ムーンライトながらは、よくある「夜行需要」という枠組みではなく、「列車が運行しない時間帯に、いかに安く速く移動するか?という前提のもとで選ばれた、一つの移動手段」という性質の方が色濃かったわけです。

 

昼間に東京〜名古屋を直通する列車が走っていれば、18きっぷシーズンなら間違いなく混雑していたでしょうし。

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※具体例

 

しかし、ムーンライトながらが安くて万能だったかと言うと、必ずしもそうとは言い切れません。Twitterを見る限りでは、東京→関西の視点しかありませんでしたが、関西→東京だと話が全く変わります。

 

 

青春18きっぷは、「0時を迎えた時点で利用開始となり、翌日の0:00を過ぎた最初の停車駅まで有効」というのが基本ルールの特性上、0時を迎えるまでに、どの程度出費を抑えるかというのが重要なテーマとなってきます。

 

 

ちなみに、ムーンライトながらにおける、0時を過ぎて迎える最初の停車駅は、下り大垣行きだと0:31の小田原、上り東京行きだと0:17の豊橋でした。

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下り大垣行きに乗る場合、東京〜小田原は1,520円ですが、小田原までのアクセス方法として、新宿〜小田原を結ぶ小田急の株主優待等を駆使する事も可能です。

 

これでかなり安上がりに抑えられ、具体的な金額は、株主優待券約800円+ムーンライトながらの指定席券520円+青春18きっぷ1回分2,410円(5回で12,050円を日割計算した金額)、占めて約3,710円となります。

 

 

一方、上り東京方面はというと、豊橋までは何らかの手段で辿り着く必要があるのですが、例えば大阪〜豊橋の運賃は4,550円もかかります。

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これなら、豊橋までも青春18きっぷを使って移動した方が安くなるのですが、0時を過ぎてからも、ムーンライトながらは、いくつかの駅に止まります。

 

そのため、青春18きっぷは2回分必要となり、内訳は、青春18きっぷ2回分4,820円(こちらも日割計算)+ムーンライトながら指定席券520円、占めて5,340円となります。

 

大阪方面は約3,700円、東京方面は約5,300円。

 

4列シートの夜行バスと比べると、運賃の上がる金土発やお盆、年末年始ならムーンライトながらが価格で負ける事はほとんどありませんが、それ以外の平日は、この金額を下回る夜行バスは今や普通に存在します。

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問題は費用面だけではありません。ダイヤ面もです。

 

下り大垣方面は、ムーンライトながらに東京駅を23:10に発車します。先述した、小田急を使うルートでも、新宿を22時台に出れば、小田原で先行でき、ムーンライトながらに乗り込めます。

 

その後順当に、大垣と米原で乗り継げば、大阪には8時ごろ到着します(京都には7:30、三ノ宮には8:30ごろ到着出来ます。平日と土日で若干時間が変わります)。夜行バスより時間はかかりますが、関西圏の到着時間はちょうど良く、「使える」ダイヤではあります。

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一方、東京方面。ムーンライトながらが大垣を発車するのは22:48なので、これに間に合うように動かなくてはいけません。そのリミットは大阪20:30発の新快速長浜行き。

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※三ノ宮駅にて撮影。

 

こちらも米原と大垣で乗り継ぎますが、ムーンライトながらの東京到着は、なんと翌朝5:05。大阪発の時間も東京着の時間も「早すぎ」感は否めません。

 

そのためか、ムーンライトながらの東京方面は、大垣方面と比べて満席になる事が少なく、東京ビッグサイトで開かれるコミックマーケットの時期や、大きなイベントが重なる日以外は、直前に空席確認をしても、△(空席残り少なめ)か○(空席あり)が多かったように思います。

 

 

「青春18きっぷは、東京へ5時に着いてからも0時まで使える便利なきっぷだぞ!」という意見もあるでしょうが、利用者の圧倒的なボリュームゾーンは、やはり東京〜関西圏でしょう。そこを考えると、5時に東京到着は早すぎるのです。

 

 

 

と、ここまで書きましたが、ムーンライトながら廃止理由の、「列車の使命が薄れた」というのは、「JRが運行したくなかったから運転をやめた」のか、「ニーズが無くなったから運転をやめた」のか、どちらが正解なのかは、結局のところJRにしか分かりません。しかし、この両者には大きな隔たりがあります。

 

前者だったとしたら、「ムーンライトながらの収入原資は、1席あたりたった520円だし…」と、利用客は納得出来なくても理解は出来るはずですし、それが廃止理由であれば、覚悟出来ている事ではあります。

 

 

しかし、後者だった場合、格安移動という点において、利用者から鉄道が見放されたと受け取る事が出来るからです。

 

車内設備や発着地で微妙な差をつける事で、きめ細やかな対応が出来るバスや、制約は多いが圧倒的な移動速度を誇るLCCが、それぞれニーズの掘り起こしをした結果、利用客の選択肢の幅が広がり、車両編成や設備、ダイヤで柔軟性に欠ける鉄道が選ばれなくなった格好という事に他ならないからです。

 

 

まあ、どこぞの会社は、割引せずとも新幹線で利益が取れてしまうので、コロナ禍において交通事業者が、あの手この手の需要喚起商品を出している中ですら、新規では「ぷらっとのぞみ」などという、価格も内容もふざけた切符を適当に出すだけに留めました。

 

https://www.jrtours.co.jp/pdf/20200909_info17.pdf

 

どこぞの会社の「在来線輸送は適当にやっておくか」というスタンスは潔いですが、選民意識丸出しの鉄オタが「お金にならない客は、どうなろうと構わない。長距離を移動するなら新幹線を使え」と同調しているのを見るに、鉄道はいよいよ公共交通機関という「建前」すら無くなりつつあると感じるところです。

 

 

 

2012年8月21日に、私を1人旅の道に引きずり込んだ、思い出深くもあり、罪深くもあるムーンライトながらは、「感謝の声」や「罵声」を誰からも浴びないまま、人々に思い出だけを残して永遠に消え去り、その灯火は2度と灯らないことでしょう。