修行僧ぷってんの雑記

移動メインのトラベラー

日本の鉄道は高いというおはなし

「日本の鉄道って高くないですか?」

 

 

これ、定期的に論争になるテーマで、そのたびに解決しないループに至ってる気がします。

 

今回はこのテーマについて、ちょっと考えてみたいと思います。

 

 

 

前提

「鉄道が高い」とは具体的に何を指すのか

前提として、「鉄道が高い」というのは、乗車距離に応じて逓増する料金システムそのものを指しているわけではありません。ここを履き違えている人がちらほらいる印象です。

f:id:travelpudding:20210306133040j:image

例えば、東京〜大阪(約550km)の乗車券は8,910円ですが、大抵の人はその金額を気にしたことはないでしょう。

 

というのも、大多数は東京〜大阪間は新幹線を利用するため、新幹線の特急券5,810円(のぞみ指定席の場合)を合わせた、14,720円の方、つまり「総額」に着目するからです。

 

この「総額」が高いという指摘を受けているのです。

f:id:travelpudding:20210306185201j:image

交通機関の選び方にギャップ?

「鉄道が高い」という主張に対して反論する人は、「鉄道にもこんな切符がある」という言い方をします。

 

交通手段を決める時は、乗り物好きでもない限り、「どの交通手段で行くか」を前提に組み立てるのではなく、価格、所要時間、出発時間、設備、あるいはアクセス等を総合的に判断し、「どの交通手段で移動するのがベターか」、あるいは「この予算でどこまでいけるのか」を決めます。

 

その判断の中で、鉄道が「価格」のフィルターを通過出来なかっただけの話なので、それに対して格安切符の存在を説いても無駄です。

 

 

 

さて、結論から言うと、「鉄道でも安く移動する方法が無いわけではないが、競合交通機関で比較した場合、多くの点で相当見劣りするので高いと感じる」が正確なところかなと思います。以下各項ごとに持論をを述べます。

 

 

 

 

①割引運賃の考え方

突然ですが、「東京〜大阪の夜行バスの運賃はいくらだと思いますか?」という質問をされた時、一言で答えるのは難しいと思います。

 

というのも、曜日によって違いますし、3列シートか4列シートか、はたまた車内設備や運行会社によっても違うためです。

 

ただ、共通して言えるのが「バス会社ごとのベース運賃という考え方こそあれど、東京〜大阪の距離に対する運賃、という考え方は存在しない」という事です。

f:id:travelpudding:20210306055123j:image

しかし、鉄道はまるっきり逆で、言ってしまえば「考え方が正規運賃ありき」。その正規運賃に対して、○%割引、○円割引という表現をよくします。鉄道会社自らこの宣伝方法を行なっているあたり、利用客も鉄道会社も、いかに正規運賃で料金を見ているかがよく分かりますよね。

f:id:travelpudding:20210306055014j:image

ちなみに、飛行機には空港間ごとに正規運賃がありますが、形骸化している事もあり、チケット購入画面で目にする事はあっても、ほとんど意識した事がないでしょう。(参考までに、東京〜大阪のJALとANAの普通運賃は、約25,000円だそうです。私は知りませんでした。)

 

 

 

②割引を受けるまでのハードル

鉄道をメインに移動する人からすれば、「え?」って思う人もいるかもしれません。しかし、鉄道で割引を受けるまでのハードルが、競合交通機関に比べて高すぎるのです。

 

具体例としてはオンライン予約。

 

飛行機やバスはそうですが、オンラインで割引運賃を購入する時、会員登録をする必要はありません。

f:id:travelpudding:20210306083547p:image

※JALの例。会員登録せずともこの画面に来れます。

 

 

ヘビーユーザーになるのであれば、ポイントやマイルの観点から、会員登録をした方がお得になるのですが、「試しに使ってみよう」程度であれば、申込段階では個人情報だけを入力するだけで、割引運賃で購入出来ます。もちろん、購入後に会員登録する事も可能です。

 

 

一方で鉄道は、会員登録をしないと、どうあがいてもオンライン商品を購入出来ません。もっと言うなら、「会員登録をしなければ、割引運賃が現時点で買えるのか買えないのかすら分からない」ケースもあります。

f:id:travelpudding:20210306165516j:image

※JR九州の例。購入には会員登録が必要ですが、空席か満席かは会員登録せずともわかります。

f:id:travelpudding:20210306125322j:image
f:id:travelpudding:20210306125318j:image

※JR西日本の例。予約以前に空席かどうかすら分かりません。

 

 

はっきり言って、割引運賃で買わせる気がないですよね。バスや飛行機を予約する時、そこまでの嫌がらせを受ける事は絶対にありえません。利用者にとって相当不親切な設計です。

 

 

③旅行先によって鉄道会社が違う可能性

これは②にも付随しますが、例えば東京在住の人が、函館と広島の旅行を検討していて、それぞれ割引運賃で購入したいとしましょう。この場合、同じサイトから買えません。なぜなら鉄道会社が違うから。

 

東京〜函館はJR東日本の「えきねっと」、東京〜広島はJR東海「エクスプレス予約」をそれぞれ会員登録する必要があります。

f:id:travelpudding:20210306101332j:image
f:id:travelpudding:20210306125228j:image

会員登録の手間もそうですが、鉄道会社が違うと料金も思ったほど安くなりません。

 

例えば、仙台〜名古屋なんかは酷く、割引を受けようと思ったら、1回の旅行で仙台〜東京、東京〜名古屋の2枚、切符を買う手間がかかり、料金は最安でも片道14,000円程度です。手間を惜しんで定価で移動すると、片道20,000円の切符を買うハメになります。

 

 

④早期割引ではどうか

JRの場合、現在のシステムでは、どれだけ早く予約したくても、1ヶ月前でしか予約出来ません。

 

「飛行機は2ヶ月前の割引運賃を持ち出すのに、JRは正規運賃を持ち出すのはズルい」というのは界隈の常套句ですが、「1ヶ月前」というタイミングを飛行機に当てはめると、特便28やANAスーパーバリュー28と同じぐらいです。これ、安い運賃を狙うなら、「相当出遅れている」と言っても過言ではないレベルです。

f:id:travelpudding:20210306125141j:image

※予約タイミングによってここまでの差が出る

 

つまり、鉄道の割引は、必然的に「緩い条件にしては安い」という評価にならざるを得ないのです。

 

 

 

⑤直前で予約するとどうか

鉄道の有利な部分としてよく上がる、直前の予約ですが、この記事で以前簡単に触れたことがあります。

 

飛行機には、ビジネスきっぷ(有効期限内なら何度でも変更自由)があったり、前日でも特便運賃があったりと、まるっきり勝負にならない価格、というわけではないです。

f:id:travelpudding:20210306125051j:image
f:id:travelpudding:20210306125055j:image

※2021年3月8日における東京〜広島の価格差の例。前日でも価格差は3,000円です。便によっては価格差が1,000円近くに縮まるケースもあります。

 

 

ただ、彼らがこの話を持ち出すたびに「分かってないな」と思うのですが、直前の切符を買う人達って、ビジネス目的や緊急性の高い移動がメインですよね?そんな人達が「鉄道は高い」と言う場面ってあるのでしょうか?

 

 

鉄道が高いと言われるのは、「どれだけ早期予約出来る環境にあっても、どれだけ条件が厳しくても構わないのに、最安料金そのものが高い基準にあるから高く感じる」からであって、直前の正規運賃を持ち出す時点で、「鉄道で価格訴求なんて到底出来っこないです」と、白旗を上げているようなものです。

 

 

 

例えば、80日前に旅行を決定した時、どの交通手段がどのぐらいの価格で移動出来るか?

これが60日前になるとどうか?

45日前は?21日前は?7日前は?

と、予約タイミングによって交通手段のベターな選択肢は変わりますが、予約タイミングが前になればなるほど、鉄道では価格のニーズを満たせないので、鉄道は高いと言われるのです。

 

 

⑥予算先行の旅行

前提2で話した、予算先行の旅行についてですが、これはもうはっきり言って鉄道と飛行機、バスとでは埋まりようのない差が出ています。

 

例えば、「東京から片道1万円でどこまで行けるのか?」という視点に立ったとしましょう。

 

まずは鉄道。

西へ視点を向けると、せいぜい名古屋が良いところ。京都・大阪へは足が出ますね。

f:id:travelpudding:20210306125919j:image

北は青森までがボーダーラインと言ったところ。北海道へはあと1歩及ばず。どれだけ早期に予約してもここが限界です。

f:id:travelpudding:20210306122809j:image

続いてバス。

 

やはり圧倒的に安く、名古屋・大阪あたりなら往復してホテル代を含めても1万円で収まりますし、西は広島や四国、出雲あたりまで、北は青森までの全域がカバー出来る計算です。

f:id:travelpudding:20210306130028j:imagef:id:travelpudding:20210306130033j:image

最後に飛行機。

 

早期に予約すれば、大抵の目的地へ到達出来ます。もちろんLCCが主ですが、JALやANAで全く出ないわけではないです。

f:id:travelpudding:20210306165614p:image

※コロナの影響もありますが、今は2週間前の予約でもこの金額です。

 

 

「予算先行の旅行というニーズは存在するのか?」という疑問に関しては、スカイスキャナーというサイトを見ていただければわかります。

 

このサイトで、出発空港を入力すると、「目的地が決まっていない場合」というサジェストが出てきます。

f:id:travelpudding:20210306165743j:image

これは、「出発空港は決まっているけど、行きたいところがまだ決まっていない」という人向けに、全国…いや、全世界の航空券を検索し、金額順に列挙してもらえるという機能です。

f:id:travelpudding:20210306165830j:image

こういう機能がある(しかも金額順に列挙している)時点で、予算先行のニーズがあるという証左になりますよね。

 

 

⑦結局のところ

ここまで色々主張しましたが、使われている切符、使い勝手の良い切符は、ちゃんと使われています。

 

繰り返しになりますが、鉄道が高いと言われるのは、「価格訴求が出来ていない」事が全てであり、鉄道運賃を自由に設定出来ない事が原因ではないのがわかります。

 

というか、鉄道運賃も形骸化させる事は簡単です。企画乗車券扱いにすれば、どうとでも出来てしまうわけです。

f:id:travelpudding:20210306170502j:image

※これなんかは良い例。大阪市内〜出雲市の乗車券6,600円より、乗車券+特急券の方が安いという逆転現象が起きています。

 

基本的な鉄道運賃はそのまま残し、席数や日程、区間限定で、距離に関係なく価格を設定してしまえば良いんです。もちろん、「乗り捨て」は出来ない仕組みにした上で。

 

 

「時間はあるけどお金が…」というのは大学生のあるあるですが、そうでなくても、予算先行のニーズは確実に存在しています。そこを鉄道がどう満たせるのか。

 

そのニーズを無視し、「鉄道の割引と比較しろ」などと傲慢な主張をしながら、クローズドな世界を生きている人には、一生かかっても気づかない現実が広がっているのです。