修行僧ぷってんの雑記

移動メインのトラベラー

JR西日本の普通回数券廃止を受けて

先日、JR東海の新幹線回数券廃止と、JR西日本の回数券廃止のニュースが飛び込んできました。


前者は割引としては渋かったのもあり、個人で購入して複数回使うというよりは、どちらかと言えば企業向けや、金券ショップでの飛び乗り需要としての性格が強く、そこまでの反発は出ていません。
f:id:travelpudding:20210406081221j:plain
一方で後者。これは相当影響がありますし、反発も多く見られます。なぜなら、単なる値上げでしかないからです。


後者が値上げとなるのは、「私鉄対策の運賃」、いわゆる「特定区間運賃」と呼ばれるものが主に関わってきます。


JRの運賃は、距離が伸びる事に一定率で運賃が加算されていきます。しかし、この料率をそのまま当てはめると、競合する私鉄に対して、著しく不利になる区間が存在します。


関東圏で言えば、新宿〜高尾(京王と競合)、関西圏で言えば、大阪〜京都(阪急と京阪が競合)、大阪〜三ノ宮(阪急と阪神が競合)などがそうです。
f:id:travelpudding:20210406074612j:plain
そのため、JRが私鉄に対抗出来るように、私鉄と並行する区間は、「距離に関係なく」運賃を設定する事としました。


しかし、「競合するのは私鉄と競合する区間だけ。そこから外れた区間は競合もなく、JRを使わざるを得ないのだから、安くする必要はない」ため、特定区間運賃が適用される区間を1駅でも外れると、通常の料率が適用されます。
f:id:travelpudding:20210406000429j:plain
(例)池袋駅にて撮影。高尾までは820円、相模湖までは990円ですが…

するとどうなるか。下の画像のように途端に値上がりするように見えるのです。
f:id:travelpudding:20210406000308j:plain
(例)新宿駅にて撮影。相模湖までは990円なのに、高尾駅までは570円と数段安い水準です。ちなみに、新宿〜高尾は本来730円かかります。



乗車券は、乗る駅から降りる駅まで買うのが普通ですが、先ほどの制度を活かして、乗車券をいくつかに分割する(以下分割芸と言います)と、普通に買うのが途端にバカバカしくなります。

具体例を挙げましょう。彦根から三ノ宮まで移動するとします。
距離が135.1kmなので、通常購入で2310円かかります。
f:id:travelpudding:20210406001147p:plain
しかし、ここで先ほどの分割芸を使うと、以下のようになります。
f:id:travelpudding:20210406001321j:plain
片道だけで、これだけの差がつくのです。割引率にして12%です。


そのためか、関西圏では「回数券のバラ売りをしている金券自販機」が当たり前のように設置されています。
f:id:travelpudding:20210406074930j:plain
利用客にとっても、普通に購入するより安く抑えられるために人気を博しているのですが、今回の回数券廃止は、この分割芸を封じるとともに、金券ショップ潰しの策と言われています。

※もちろん、三ノ宮や、大阪、京都などで一旦改札を出て、切符を買い直せば(あるいはICカードで乗車すれば)、今後も分割芸をする事は可能ですが、これまでは1本で行けていたのに、わざわざ途中下車する手間は無視出来ません。


そして、反発が大きかったもう1つの理由が、「ICOCAのポイントサービスが相当見劣りして、大半の人には値上げでしかない」事です。


回数券は「購入日から3ヶ月有効」なのですが、ICOCAのポイントサービスに関しては「暦月の1日〜末日までの積算で、かつ同一運賃区間を11回乗車した時、11回目以降から15%還元」という、普段使いでない人にとっては、とんでもなく厳しい条件となっています。

https://www.westjr.co.jp/press/article/items/210331_02_icoca.pdf

これほどまでに関西で回数券が指向されるかと言えば、関西エリアの流動と新快速の影響が大きいでしょう。


東京の場合でも、分割芸を行えば確かに安いのですが、先述した通り「1駅でも区間を外すと割引が適用されない」ため、都心に到着しても路線が大量にあり、目的地が分散しやすい東京では、駅前に金券自販機が設置されるような状況にはならなかったと考えます。
f:id:travelpudding:20210406080356j:plain
一方で関西は、東京ほど路線網が発達していない事から、「とりあえず三ノ宮、大阪、京都駅が目的地」か、「それらの駅から乗り換えて移動する」事になり、分割芸の恩恵を受けやすいからこそ、駅前に金券自販機が設置されるようになったのではないでしょうか。
f:id:travelpudding:20210406080415j:plain




もう1つは新快速です。



新快速のスピードに関しては、今更言うまでもありませんが、姫路や野洲といった「関東だとお出かけには少々ためらう距離(約90km、関東だと1時間半近くかかります)でも、大阪から1時間程度で着いてしまうため、十分移動出来てしまいます。
f:id:travelpudding:20210406080518j:plain
そんな新快速の功罪とも言うべきか、播磨地区や滋賀県から京阪神エリアに向かう時は、「分割芸を利用した方が安くなる」パターンがほとんどであり、しかもICOCAポイントサービスの割引率は、先ほどの例で出した、分割芸での12%と比較しても、割引が渋いというか、ほぼ正規運賃で乗れと言われているようなものです。



これらの話をすると、「滋賀県や播磨地区からの分割芸は、本来の使用用途と違うのだから禁止されて当然」という意見がありますが、この歪んだ運賃制度をそのまんまにしているどころか、さらに格差を助長している方が、よほど問題なのではないでしょうか。



というのも、京都〜大阪などは、2018年に廃止された「昼特回数券」の割引をICOCAポイントサービスに残しており、区間によっては「土日に乗るだけで50%還元」という有様です。このように、京阪神とそれ以外の地域で、割引を受ける金額が全く違います。

https://www.jr-odekake.net/icoca/guide/point/pdf/point_timezone.pdf

そして皆さんがことごとく無視していたのが、「振替輸送」。


先ほどの分割芸は、区間が分割されているのがネックではありますが、例えば大阪〜京都や、大阪〜三ノ宮などの私鉄競合区間などは、振替輸送の恩恵を受けやすくなっています。というか、京阪神以外の播磨地区や滋賀県は、そもそも振替輸送がない場合も多いですし。


ところが、ICOCAで乗車すると、「行き先が決まっていないから」という理屈で、振替輸送の恩恵を受けられません。
f:id:travelpudding:20210406080822j:plain


以前までは、ICOCAでも振替輸送の恩恵を受けられたのですが、2019年に突然改悪され、ICOCAで移動するインセンティブがさらに下がりました。

https://www.westjr.co.jp/press/article/2019/01/page_13653.html

新快速は確かに速いのですが、走行距離が長い分トラブルも引き起こしやすく、いざという時の保険は、ICOCAよりも切符の方が有利という本末転倒な状況に加え、JR東日本と違って運賃も同額とくれば、わざわざICOCAを使用するメリットがありません。




こういう改悪をするぐらいなら、「切符を買う旅客は割引を受けられなくし、1回乗車からでもICOCAの割引を強化する事で、ICOCAを使用するインセンティブを高めるべき」でしょう。

この発想はETCの土日割引と同じです。


あるいは、京都〜大阪や三ノ宮〜大阪といった私鉄競合区間を「通過しただけ」の場合でも、時間帯指定ポイントを受けられるようにする、という方法も考えられます。



しかし、JR西日本はそうしませんでした。
結局、本来の仕組みに是正する事が、いくら「正しい」としても、今あるサービスに対してのフォローが不十分だと、値上げとしか映らず、反感を買うだけでしかありません。

「関西圏のきっぷ離れ」は、当分遠いなと思った出来事でした。