修行僧ぷってんの雑記

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ムーンライトながら廃止で消える格安移動の選択肢

ムーンライトながら、廃止決定。

 

 

運行車両の185系が廃車となるにあたって、その去就が注目されていましたが、結局は廃止になりました。最終運行は2020年の3月で、さよなら乗車も叶わなかった人は多いでしょう。

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そんなニュースを発表したJR東日本のプレスリリースには、廃止理由として「列車の使命が薄れてきた」とあります。

 

これについては、今まで消えていった夜行列車の廃止理由によくあった、「車両の老朽化」と「利用客が減った」だけしか書かれないパターンとは、少し性質が違うような気がします。

 

以下、いくつか考察してみます。

 

 

元々、ムーンライトながらは、毎夜走る定期列車で、さらに自由席も存在しました。

 

しかし、2007年に指定席化、2009年に臨時列車化されてからは、新幹線の最終を逃した人向けという役割も失って、18キッパー(青春18きっぷ利用者を指す)専用列車状態となっていました。

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「2009年の臨時列車化でムーンライトながらは役割を終えた」という声も聞きますが、それは誤りです。

 

確かに2009年には、既にツアーバスが存在しましたが、まだ危険な乗り物という認識は根強かったですし(2012年の関越道ツアーバス事故で顕在化したとも言えるが)、「正真正銘のLCC (ジェットスターやpeachを指す)」も「ツアーバス上がりの高速乗合バス」のいずれも存在していません。

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つまり、ムーンライトながらは臨時列車化後しばらくは、東京〜関西間の主たる格安移動手段として君臨していたのです。

 

 

 

しかし、それも近年では、乗車日1ヶ月前に窓口に行って狙って抑えなくても、最混雑期をずらせば、直前でもなんとなく空いている事が常態化していました。

 

 

ムーンライトながらは、えきねっとでネット予約も出来るとはいえ、人気の日取りを予約するには、やはり乗車日1ヶ月前に窓口へ行き、予約する必要があります。

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この「1ヶ月後の指定席を抑えに窓口に行く」という行為そのものが前時代的な事や、主要駅でしか1ヶ月前予約を受け付けなくなったなどの理由からか、ネットオークションでチケットが出回っていたのが問題になりました。

 

 

また、ムーンライトながら自体が、ネットでわ「走るスラム(※)」などと呼ばれたりして、どことなく、気軽に乗りやすい乗り物では無かったように思えます。

 

※このワードも、自由席が存在した時代には当てはまっていたかもしれませんが、今はスラムと呼ぶには大人しすぎます。しかし、未乗車の人だと信じ込んでしまうかもしれません。

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前提として、ムーンライトながらは、よくある「夜行需要」という枠組みではなく、「列車が運行しない時間帯に、いかに安く速く移動するか?という前提のもとで選ばれた、一つの移動手段」という性質の方が色濃かったわけです。

 

昼間に東京〜名古屋を直通する列車が走っていれば、18きっぷシーズンなら間違いなく混雑していたでしょうし。

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※具体例

 

しかし、ムーンライトながらが安くて万能だったかと言うと、必ずしもそうとは言い切れません。Twitterを見る限りでは、東京→関西の視点しかありませんでしたが、関西→東京だと話が全く変わります。

 

 

青春18きっぷは、「0時を迎えた時点で利用開始となり、翌日の0:00を過ぎた最初の停車駅まで有効」というのが基本ルールの特性上、0時を迎えるまでに、どの程度出費を抑えるかというのが重要なテーマとなってきます。

 

 

ちなみに、ムーンライトながらにおける、0時を過ぎて迎える最初の停車駅は、下り大垣行きだと0:31の小田原、上り東京行きだと0:17の豊橋でした。

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下り大垣行きに乗る場合、東京〜小田原は1,520円ですが、小田原までのアクセス方法として、新宿〜小田原を結ぶ小田急の株主優待等を駆使する事も可能です。

 

これでかなり安上がりに抑えられ、具体的な金額は、株主優待券約800円+ムーンライトながらの指定席券520円+青春18きっぷ1回分2,410円(5回で12,050円を日割計算した金額)、占めて約3,710円となります。

 

 

一方、上り東京方面はというと、豊橋までは何らかの手段で辿り着く必要があるのですが、例えば大阪〜豊橋の運賃は4,550円もかかります。

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これなら、豊橋までも青春18きっぷを使って移動した方が安くなるのですが、0時を過ぎてからも、ムーンライトながらは、いくつかの駅に止まります。

 

そのため、青春18きっぷは2回分必要となり、内訳は、青春18きっぷ2回分4,820円(こちらも日割計算)+ムーンライトながら指定席券520円、占めて5,340円となります。

 

大阪方面は約3,700円、東京方面は約5,300円。

 

4列シートの夜行バスと比べると、運賃の上がる金土発やお盆、年末年始ならムーンライトながらが価格で負ける事はほとんどありませんが、それ以外の平日は、この金額を下回る夜行バスは今や普通に存在します。

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問題は費用面だけではありません。ダイヤ面もです。

 

下り大垣方面は、ムーンライトながらに東京駅を23:10に発車します。先述した、小田急を使うルートでも、新宿を22時台に出れば、小田原で先行でき、ムーンライトながらに乗り込めます。

 

その後順当に、大垣と米原で乗り継げば、大阪には8時ごろ到着します(京都には7:30、三ノ宮には8:30ごろ到着出来ます。平日と土日で若干時間が変わります)。夜行バスより時間はかかりますが、関西圏の到着時間はちょうど良く、「使える」ダイヤではあります。

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一方、東京方面。ムーンライトながらが大垣を発車するのは22:48なので、これに間に合うように動かなくてはいけません。そのリミットは大阪20:30発の新快速長浜行き。

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※三ノ宮駅にて撮影。

 

こちらも米原と大垣で乗り継ぎますが、ムーンライトながらの東京到着は、なんと翌朝5:05。大阪発の時間も東京着の時間も「早すぎ」感は否めません。

 

そのためか、ムーンライトながらの東京方面は、大垣方面と比べて満席になる事が少なく、東京ビッグサイトで開かれるコミックマーケットの時期や、大きなイベントが重なる日以外は、直前に空席確認をしても、△(空席残り少なめ)か○(空席あり)が多かったように思います。

 

 

「青春18きっぷは、東京へ5時に着いてからも0時まで使える便利なきっぷだぞ!」という意見もあるでしょうが、利用者の圧倒的なボリュームゾーンは、やはり東京〜関西圏でしょう。そこを考えると、5時に東京到着は早すぎるのです。

 

 

 

と、ここまで書きましたが、ムーンライトながら廃止理由の、「列車の使命が薄れた」というのは、「JRが運行したくなかったから運転をやめた」のか、「ニーズが無くなったから運転をやめた」のか、どちらが正解なのかは、結局のところJRにしか分かりません。しかし、この両者には大きな隔たりがあります。

 

前者だったとしたら、「ムーンライトながらの収入原資は、1席あたりたった520円だし…」と、利用客は納得出来なくても理解は出来るはずですし、それが廃止理由であれば、覚悟出来ている事ではあります。

 

 

しかし、後者だった場合、格安移動という点において、利用者から鉄道が見放されたと受け取る事が出来るからです。

 

車内設備や発着地で微妙な差をつける事で、きめ細やかな対応が出来るバスや、制約は多いが圧倒的な移動速度を誇るLCCが、それぞれニーズの掘り起こしをした結果、利用客の選択肢の幅が広がり、車両編成や設備、ダイヤで柔軟性に欠ける鉄道が選ばれなくなった格好という事に他ならないからです。

 

 

まあ、どこぞの会社は、割引せずとも新幹線で利益が取れてしまうので、コロナ禍において交通事業者が、あの手この手の需要喚起商品を出している中ですら、新規では「ぷらっとのぞみ」などという、価格も内容もふざけた切符を適当に出すだけに留めました。

 

https://www.jrtours.co.jp/pdf/20200909_info17.pdf

 

どこぞの会社の「在来線輸送は適当にやっておくか」というスタンスは潔いですが、選民意識丸出しの鉄オタが「お金にならない客は、どうなろうと構わない。長距離を移動するなら新幹線を使え」と同調しているのを見るに、鉄道はいよいよ公共交通機関という「建前」すら無くなりつつあると感じるところです。

 

 

 

2012年8月21日に、私を1人旅の道に引きずり込んだ、思い出深くもあり、罪深くもあるムーンライトながらは、「感謝の声」や「罵声」を誰からも浴びないまま、人々に思い出だけを残して永遠に消え去り、その灯火は2度と灯らないことでしょう。